キングコングの西野亮廣さんが無料でコーヒーが飲めるという
面白いカフェ「SHIBUYA FREE COFFEE」を渋谷のセンター街にオープンして話題になっています。
(参考)キンコン西野が仕掛けた「無料のコーヒー屋」が大盛況!
この仕組みにはしっかりとしたからくりがあって、
コーヒーを誰かにあげたい人がコーヒーをあげる権利を買っていて
そのコーヒーをお店に来た人は無料で飲むことができます。
今回はそのコーヒーショップのお話とそれにまつわるエピソードを西野亮廣さんご本人が話されていたので、その内容を元に、
「そういえば自分も同じようなことを思ったことがあったな」
「アートとこのコーヒーショップって似ているな」
と感じたことをまとめてみたいと思います。
ギフト経済
物があふれ過ぎている今の社会において、
誰かに何かをあげたいという欲求を満たす「ギフト経済」と呼ばれるものが出てきました。
西野さんのコーヒーショップはこのギフト経済の一つのカタチで、西野さんは「ギフト経済が機能するかどうか」をこのコーヒーショップを使って検証されているのだそうです。
このギフト経済ですが、一つ注意しなければならないことがあって
それが、西野さんいわく
イベントのチケットを送ること
だそうです。
ご自身もお笑い芸人なのでイベントには縁のあるお仕事だと思いますが、なぜイベントのチケットを送ってはいけないのか。
そして、ここに私はとても共感できたのですが、私も
「音楽業界のイベント=コンサート」にはお金を払って行った方がいい
という考えを持っています。
仕事柄、演奏会に行く機会も多く、その都度誰かを誘っていくこともありますし、逆に誘って頂いて行くこともあるのですが、
どんな場合でもコンサートチケットはプレゼントしませんし、してもらわないようにしています。
コンサートに限らず、美術館、神社仏閣といったさまざまなアートにまつわるものを見る(=イベント)時は
自分でお金を払って楽しむ
ことが、とても大切だと思うのです。
空間を楽しむ
CDからYouTubeへ…
と、音楽を気軽に楽しめる環境は日々進化をしており、新しい何かが注目される度に、
実際の演奏会に足を運んでもらえなくなるのでは?
音楽業界が衰退してしまう…
といっとことが言われてきました。しかし、蓋をあけてみると衰退していくようなことはなく、むしろ活発になったような気さえします。
それは、お客さんが楽しんでいるのが
音楽そのものだけでなはなくトータルとしての『空間』
だからで、コンサートの場合ならこの空間には
・音楽家をはじめとしたアーティスト
・支えてくれるスタッフ
・お客さん
がいます。
この3つの立場にある人の全ての掛け算でその空間は成り立っているのです。
コンサートでは、作り手側が音楽家(出演者)と多くのスタッフが一緒になってつくりあげたコンサートを、お客さんが「チケット」を購入することで楽しんでいます。
チケット購入のリスク
「チケットを購入する」というのはお客さんにとっては「リスク」です。
中身がわからないものに対して先にチケットを買っているのですから基本的にはリスクしかありません。
もちろん
「この人の演奏会は毎回楽しいから!」
とある程度わかった上でコンサートのチケットを買っていることもあると思いますが、中には、
「このコンサートは初めてだけど本当に面白いかな?」
そんな思いでチケットを買っていることもあるのではないでしょうか。
そういう場合は特に、リスクが大きく、お客さんはリスクを抱えた状態で会場に足を運んでいることになります。
しかし、リスクを払っていることで、楽しいとわかった上でチケットを買った場合もそうでない場合も、
楽しみたいという気持ちは絶対に持っている
ことになります。
お客さんも、お金と時間をかけてコンサートに行く以上、みんな心のどこかで絶対に「楽しみたい」と思っていると思います。
お金を払っていない場合
しかし、主催者側が「客席を埋めたい」などといった理由でチケットをばらまくなどしたりすると、その会場に無料(お金を払っていない)で足を運んでいるお客さんがいることになります。その人は
「リスクを払っていない」
ことになり、中には、
この演奏会おもしろいのかな?
期待もそんなにしてないけど暇だったし楽しめたらラッキー
的な軽い感覚で足を運んでいる人もいると思います。
結果、その会場には「熱量の少ないお客さん」がいることになり
そんな人が全体の2~3割にも及んでしまうと
これが非常に残念なのですが、
楽しみづらい空気
が生まれてしまうのです。
こうなってしまうと事態は深刻で
お金を払ってチケットを買って、「楽しみたい」思ってきた人が
楽しくないのかな?
楽しんだらダメなのかな?
と、盛り上がれないことにつながってしまい、結果お客さん一人一人の最終的な「満足度」が低くなってしまいます。
こう考えると有料のイベントにお客さんを無料で呼んではダメということがわかっていただけたかと思います。
なので、もしイベントのチケットを誰かに送ってしまうと、送った相手だけでなく出演者側にも迷惑をかけることになってしまうのです。
そういった意味で西野さんが選んだ「コーヒー」というギフトはもらっても誰も困らない非常にちょうどいいギフトなんだと思います。
アートにお金を払うということ
ここまではキングコングの西野亮廣さんがおっしゃっていた内容を中心に掘り下げながら、それを音楽業界に当てはめてお話していきました。
ここからは個人的に自分が感じていること、
音楽業界のイベント=コンサートにはお金を払って行った方が良い
について2つほど理由をお話しようと思います。
理由1.アートの恩恵を最大限に受けるために
音楽に限らず、美術や演劇など「アート」と呼ばれるもの全般、芸術を楽しむのにはお金を払うべきだと思っています。
アートは、
「生きるのに必要でなさそう=生活必需品でない」
という風に思われしまうことが多く、
自然とお金をかける優先順位としても低くなってしまいがちです。その結果、
アートにお金をかける人=余裕がある人
みたいな価値観がうまれてしまったりもするのですが、やはりアート自体は多くの人に愛されてきたそれだけ価値のあるものだと思います。
ちなみに、私自身も決して裕福な家で育ったわけではありませんし、今でも
アートにいくらでもお金をかけることができるほど裕福ではありません。でも、
そんな時だからこそ逆にアートにはお金をかけた方がいい
と思っている部分があって、その大きな理由の一つが、
心を豊かに保ちたい
ということです。
お金のためだけに生き、生きるためだけにお金を使うようになるとだんだんと自分の心が痩せていってしまうような感覚になるのです。
私自分も音楽に携わっている身として、どんな状況であっても心は豊かでありたいですし、いつでもアートを楽しめる人間でいたいと思っています。
そして、アートを楽しむ上で大切なのが、
お金を払い、「楽しみたい」という気持ちを最大にした上でアートと向き合う
ことだと思っています。
お金をかけることで自然と「期待値」が高まり、アートからの“恩恵”を最大限受け取ることができるような体勢が整うように感じます。
そしてそれは、素晴らしいアーティストになればなるほどその金額も上がり、「期待値」も上がり、受けることができるアートの“恩恵”も大きくなっていくのです。
理由2.アートとお金を適切に結びつけるために
こんなことを言うと、
アートとお金を結びつけるなんて不謹慎だ
と言われてしまいそうですが、実際は全てのアーティストにも生活があり、アートを世の中に出すためにお金と時間を費やしています。
これは私自身の境遇も大きく関係しているので全ての人にあてはまる訳ではないと思いますが、私も一人の音楽家として、コンサートでお金をもらって演奏します。
それは、その都度ソロだったりアンサンブルだったりするわけですが、
お金をもらってプロとして演奏させていただく以上、それに見合ったパフォーマンスをする責任があります。
その時、もし自分がアートに普段からお金を払っていないと、
これだけのものを提供してくれたアーティストにこれだけ支払う
というようなアートに対しての「相場観」がわからなくなってしまう気がします。
自分がチケットを売る側になることがあるからこそ、
お客さんとして「買う側の感覚」も知っておくこと
はとても重要なことだと思いますし、そうすることでアートにお金を払う側の感覚ともらう側の感覚との誤差を減らしておく「市場調査」的な意味合いもあります。
理由3.アート業界にお金を回したい
自分がお金をもらう側になるときも、払うときもそうなのですが、アートに積極的にお金を関わらせることで、
アート業界にお金を回したい
という思いも少なからずあります。
日本は、ヨーロッパやアメリカなどと比べると「アートにお金をかける人」というのはそれほど多くないというのが実情です。
そういう意味で今の日本は、なかなかアートが育ちづらい土壌になってしまっています。
だからこそ、未来のアート業界に少しでもお金が回っていくよう、自分もアートにはお金をしっかりとかけられるような人間でありたいと思っています。
アートにしっかりお金がかかっていくことで、アートがより多くの人の心を豊かにしてくれると信じています。
まとめ
今回の記事をまとめると、
- 誰かに何かを送る「ギフト経済」が流行り始めている。
- 空間が冷めてしまう危険があるのでイベントのチケットは「ギフト」にしてはいけない。
- アートに対してお金を払うことで期待値が高まりその「恩恵」を最大限に受けることができる。
- アート業界にお金が回ることで「心が豊か」になる。
です。
やや話が広がりすぎた感は否めませんが、西野さんの『SHIBUYA FREE COFEE』も『アート』も
誰かの心とちょっぴり豊かにする
という点では共通しています。
そう考えると、私たちが今のアートに対してお金をかけることは未来のアートに対して「ギフト」を送っているということなのかもしれません。