2020年1月27日(月)。
吹奏楽業界にショッキングなニュースが飛び込んできました。それが、
『全日本吹奏楽連盟事務局長ら2人が1億5200万円を不正受給していた』
というニュース。
事務局長と事務局次長の二人が約10年間に渡って、自身の給与や賞与に上乗せして計上(着服)していたようで、
現時点では、二人の局長と次長については年齢(それぞれ、50代、40代ということ)以外、実名など詳しい情報は公開されていませんが、
多くの吹奏楽に関わる人にとって「許しがたい事件」だと思います。
「全日本吹奏楽連盟」というと、『全日本吹奏楽コンクール』と呼ばれる吹奏楽部にとっての“甲子園”とも言える大きな大会を主催している団体で、
全国のほとんどの小中高一般の吹奏楽部(団)が加盟していると言っても過言ではありません。
私自身、小中高と吹奏楽部に所属していたので「全日本吹奏楽連盟」という名前自体は聞いたことがあったのですが、
その詳しい実態などは知らなかったので、今回の事件を機にまとめてみようと思いました。
「全日本吹奏楽連盟」ってどんな組織?
「全日本吹奏楽連盟」、調べてみると意外なほどその歴史は古く、Wikipediaによると、
- 1939年に日本の「吹奏楽の振興」を目的として設立
- 1954年に現在の名前「全日本吹奏楽連盟」に改称
- 1973年に「社団法人」化
- 2013年に「一般社団法人」化
した連盟でした。
ちなみに「社団法人」というのは“営利(お金を稼ぐこと)を目的としない(=非営利)団体”のことで、
「一般社団法人」は2008年に法整備されたことで設立できるようになった、“官庁の許可を必要としない社団法人”です。
支部の種類と登録加盟団体数
「全日本吹奏楽連盟」には全部で11の支部があります。
そして、少し古いですが下記の表2010年時点では15,000の団体が加盟、2018年も多少減ったものの14,134の団体が加盟しており、非常に大きな組織ということがわかります。
会員連盟 | 小学校 | 中 学 | 高 校 | 大 学 | 職 場 | 一 般 | 合 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
北海道支部 | 125 | 375 | 224 | 24 | 7 | 116 | 871 |
東北支部 | 255 | 737 | 391 | 34 | 10 | 197 | 1,624 |
東関東支部 | 238 | 1,053 | 516 | 37 | 10 | 221 | 2,075 |
西関東支部 | 43 | 782 | 340 | 23 | 5 | 134 | 1,327 |
東京支部 | 40 | 610 | 295 | 28 | 14 | 114 | 1,101 |
東海支部 | 99 | 858 | 509 | 30 | 12 | 185 | 1,693 |
北陸支部 | 21 | 211 | 114 | 14 | 0 | 71 | 431 |
関西支部 | 64 | 970 | 532 | 47 | 11 | 350 | 1,974 |
中国支部 | 75 | 542 | 297 | 37 | 6 | 112 | 1,069 |
四国支部 | 17 | 259 | 119 | 11 | 2 | 53 | 461 |
九州支部 | 148 | 791 | 455 | 46 | 11 | 218 | 1,669 |
全国合計 | 1,125 | 7,188 | 3,792 | 331 | 88 | 1,771 | 14,295 |
(Wikipediaより)
組織の仕組み
連盟は、代表に大阪府立淀川工科高等学校の吹奏楽部を全国レベルにしたことで有名な指導者でもある“まるちゃん”こと丸谷明夫氏を据え、その下に役員を置いた組織構成になっています。
その内訳はWikipediaによると、
- 代表全日本吹奏楽連盟理事長 丸谷明夫 (2013年5月24日より就任)
- 役員
- 顧問2名、相談役1名、名誉会員19名
- 理事長1名、副理事長1名、常任理事7名、理事11名、監事2名
- 支部長11名
となっているのですが、今回の事件で話題となった事務局長についてははっきりとはわかりません。
ただ、全日本吹奏楽連盟の定款を見てみると、
第27条(事務局)
全日本吹奏楽連盟“定款”より
この法人の事務を処理するために事務局をおく。
2 事務局には事務局長1名、その他の職員をおく。
3 職員は理事長が任免する。但し、事務局長等重要な職員は理事会の決議を経て理事長がこれを任命する。
4 事務局長は財産の状況または理事の業務の執行について不正の事実を発見した時は、これを理事長・監事または行政庁へすみやかに報告すること。
5 職員は有給とする。
と書かれており、事務局長は「理事会の決議を経て理事長が任命する」となっています。
また、今回の事件から事務局には少なくても事務局長の他に事務局次長が「その他の職員」としていたことも明らかになりました。
本来であれば、理事の業務の執行などの不正を正さなければならない立場にある事務局長本人が『不正』を行っていたというのは非常に残念な話だと思います。
今回の事件の謝罪会見では、そういった「任命責任」もあってか、事務局長、事務局次長本人ではなく、理事長の丸谷氏が謝罪をなさっていました。
事件の真相
今回の不正受給の問題について、真相はまだ明らかになっていません。
各社記事によっても若干報道の差があるのですが、公表されているニュースによると、
全日本吹奏楽連盟と共同で毎年夏の吹奏楽コンクールを主催している朝日新聞社は、
連盟の内部調査に対して事務局長は「給与の上乗せを理事長が認めた」と話したという。丸谷理事長は会見で「(上乗せを認めたことは)断じてない」とし、「深くおわびする。不正が二度と起きないよう信頼回復に全力を挙げる」と述べた。
朝日新聞デジタル
連盟の内部調査委員会は「正規の給与表には理事長の押印があったが、水増しした給与表を認めた痕跡はない。事務局長の証言には裏付けがなく、信用できない」と判断した。
と、「現理事長との関係」があったことについて触れていますが、
その一方で産経新聞のニュースでは、
事務局長は連盟に対して「上乗せは前の理事長が認めていた」という趣旨の主張をしている。連盟はこの主張を裏付ける証拠はないとし、民事、刑事両面で対応を進める。
産経新聞
と、「前の理事長との関係性」を示唆していて、
情報の統一もまだはっきりとしていない印象を受けます。
ただ、「不正受給」が始まったのが2010年度なのに対して、丸谷氏が理事長に就任したのが2013年ですので、
確かに前の理事長時代からすでに「不正受給」は始まっていたことになりますが、
丸谷氏就任後も7年近くこの不正に気づけなかったということで、現理事長として丸谷氏も責任を問われてしまうかもしれません。
ちなみにこの事件を見抜けなかったということの責任から、監事はすでに辞任しているということです。
お金の不透明さ
ところで、今回の『約10年で1億5,200万円』という金額を、単純計算してみてさらに驚いたのですが、
1億5,200万円÷10年=「1,520万円/1年」
これを2人で割ったとして、「760万円/1人」
ということになります。
(実際はおそらく事務局長の方が事務局次長よりも多くもらっていたと思います。)
そしてこの「760万円」は「上乗せされていたお金」なので、実際に二人がもらっていた金額は当然「760万円+α」ということになります。
これだけの金額を毎年隠していたという話には本当に呆れてしまいますが、
この上乗せ分に関しては各社記事によると「コンクールなどの会場費」や「課題曲の楽譜制作費」として毎年計上しごまかしていたのだそうです。
誰のお金なのか
「全日本吹奏楽連盟」は先ほども出てきた通り、「一般社団法人」なので、営利をその活動の目的にしていません。
そのため、組織として集めている「お金」は基本的には「組織が活動していくために必要な最低限のお金」ということになり、特定の誰かが儲けてはいけません。
その中には、すでに出てきた「コンクールの会場費」「課題曲の楽譜制作費」などといった必ずかかるお金の他に、
組織のために働いてくれる人(事務局長も含まれます)の「お給料」も含まれています。
これらを賄うために、連盟は「お金」を集める必要があるわけですが、吹奏楽に関わる身として実感があるのは、
- 連盟への「登録費」(年1回徴収)
- 吹奏楽コンクールへの申し込み費(出る学校のみ徴収)
- アンサンブル・コンテストの申し込み費(出る学校のみ徴収)
- チケット売り上げ
の4つがすぐに思い浮かびます。
加盟団体数が約14,000団体近いことを考えると当然入ってくる金額もそれなりの額になってきますが、
その金額に対して、十分にお金を管理できる人員が確保されていたのかは、今回の事件を受けて正直心配になってしまいました。
そして、こういった連盟に集まるお金のほとんどが『部費』として吹奏楽部で集められているお金、部員たちの保護者の方々のお金だということを考えると、
やはり、
「正しいところに正しい金額のお金が使われている」
ことと、
「お金の管理をきちんと行う」
ことは絶対条件だと思います。
なぜ10年もバレなかったのか
たった2人の事務局員が約10年にも渡って不正をしており、その金額も1億5,200万円という桁に登っている。
というのは、本当にとんでもない話で、
もちろん、一番悪いのは不正を働いたこの二人に違いないのですが、やはりこれだけの額のお金が隠されていたことに気づけない“組織”というは、
監事の方だけではなく組織としても「何らかの無理があった」ような気がしてなりません。
組織の再編成は必須
今回、
「一般社団法人」という形態をとり、「吹奏楽の振興を目的とする」という共通の目的を持ったはずの「全日本吹奏楽連盟」の中で、ごく一部の人が『私欲』のためにお金を着服していた。
というのは、本人たちだけでなく組織としても本当にあってはならないことです。
今後は、その失われてしまった1億5,200万円のお金をどうするのかという問題
(個人的には誠意として連盟加盟団体に1億5,200万円÷15,000団体=1万円ずつ返金するなど誠意を見せて欲しいです。)
も含めて、
なぜ今回こんなことが起きてしまったのか?
という「組織の在り方(仕組みに無理がなかったか)」をもう一度見直して、二度と今回のような出来事が起きてしまわないように、
「全日本吹奏楽連盟の組織の“再編成”」が必須になってくると感じます。