ピアニストの隣に無表情で座り、ふと立ち上がっては楽譜をめくる人。
コンサートに行くとこんな光景を目にすることがあります。
クラシックの演奏会に馴染みがなく初めて見た人は違和感を覚えるかもしれませんが、
この光景自体は割とよく見る光景で、
ピアニストの隣に座っているこの人を
楽譜をめくる人=譜めくりすと
と呼びます。
僕も年に数回、この「譜めくりすと」としてステージに上がることがあるので
今回はその踏めくりすとについて少し記事にしてみたいと思います。
1. 「譜めくりすと」ってなに?
ピアニストは、ソロ(独奏)の本番では暗譜で演奏することがほとんどですが、
歌や楽器のアカンパニスト(伴奏)の場合は、暗譜はしないことが多く、
楽譜を見ます。
そうなると、演奏中に自分で楽譜をめくることのできないピアニストは
誰かに楽譜をめくってもらう必要が出てきます。
そこで登場するのが、「譜めくりすと」。ということになります。
2. 最初はすごく緊張した
見た目には地味で、脇役感のある譜めくりすとですが、その役割はかなり重要です。
先述の通り、ピアニストは覚えていないから楽譜を見ている訳で、
もしも、その楽譜をめくり間違えると…
演奏に支障が出てしまい、
もしかすると演奏会自体を台無しにしてしまうかもしれません。
自分も、初めて譜めくりをした時にはとても緊張しました。
とは言っても実際に演奏するわけではなく、楽譜もしっかりと見ているので、
落ち着いてさえいればそれほど大変なことではありません。
自分も、だんだんと回数を重ねてくるうちに落ち着いて譜めくりができるようになりました。
3. どうやって楽譜を見ているか
演奏中どこを追うかについては、色々なタイプの人がいるようですが、
① スコア全体を見ながら追う
② ソロ(歌・楽器)を追う
③ 低音(ピアノの左手)を追う
の3つに分けられるかと思います。
「譜めくりすと」が楽譜を初めて目にするのは、当日のリハーサルになることがほとんどで、
時によってはリハーサルもなくいきなり本番。というさえあります。
歌曲のように、簡単な楽譜ならそれほど大変ではありませんが、
そうでない場合、例えば…
・ 変拍子の多い管楽器の曲
・ 歌の伴奏をオーケストラスコアを見て伴奏している場合
といった曲の時は、すべての音を同時に追うことが難しくなります。
そうなった時、追いたいのは、
できるだけシンプルなパート
ということになります。
分かりやすいソロパートややピアノの左手といった外声部を追うことで
見失う(=落ちる)ことが少なくなります。
また、いずれの場合も「拍子」を数えることは必須になります。
4. 音楽に乗る
「譜めくりすと」は演奏者ではないので、できるだけ存在感を消してステージに座っています。
だから、緊張のあまり堅苦しくなってしまうのもやっぱり不自然です。
ステージという発信者側に座っていることを忘れずに、
音楽の自然な流れに身を任せていることで楽譜も自然と入ってきます。
5. ある意味では特等席
「譜めくりすと」はピアニストの真横という特等席。
例え、どんなにお金を払ったとしても聞けない位置から演奏を聴くことができます。
以前、読売交響楽団のホルン奏者である日橋辰郎さんの演奏会で
「譜めくりすと」 をさせて頂いたことがあるのですが、
ホルンのベルから直接聞こえる演奏を間近で聴くことができ、
ステージ正面から聴こえる素晴らしい演奏の裏では、
ものすごく“楽器を鳴らしている”ということを身をもって体験できました。
そういった意味では、普段はできないような
貴重な経験ができるのも「譜めくりすと」の特権かもしれません。
6. ピアニストによる違い
また、多くの異なるピアニストの横に座るため、
それぞれの方の演奏を空気も含めて間近で感じることができます。
その中には、となりに座っていても鳥肌が立ってしまうような素晴らしい方もおり、
伴奏ひとつとっても、ここまで個性が出るのかと面白い発見を何度となくさせて頂きました。
7. まとめ
・ 「譜めくりすと」は責任重大
・ 拍を感じながら楽譜はできるだけシンプルに追う
・ 「譜めくりすと」の座る席は特等席
幸いなことに多くの方の演奏に「譜めくりすと」として参加させて頂き、
貴重な体験をさせて頂いております。
演奏会を良いものにするという点では、演奏者と同等かある意味それ以上に責任がある「譜めくりすと」。
機会を頂いた際には、しっかりと緊張感を持って、けれどそのステージを楽しむ心も忘れずに楽譜をめくっていきたいと思います。