近年、多くの学校で生徒数が減少し吹奏楽部も20人〜30人程度の部が増えてきました。
吹奏楽コンクールでも大編成と同じくらい小中編成が活発になり、それに伴い複数の楽器を持ち替えて演奏している学校も目にするようになりました。
今回はそんな持ち替えに関する記事を書いてみたいと思います。
そもそも持ち替えて良い?
コンクールなど吹奏楽で持ち替えることはOKなのかということですが、2019年現在、吹奏楽連盟のコンクール規定でも持ち替えはOKということになっています。
ただし、コンクールの場合楽譜を表記とは違う楽器で演奏することができないので、トランペットの楽譜をサックスに持ち替えて演奏するといったことはできません。
専門家の観点から見てOKな持ち替え
管楽器をやっていると色々な方から「他にどんな楽器ができるんですか?」と聞かれることも多いのですが、実は管楽器奏者は意外と専攻以外の楽器ができないことがほとんどです。
そんな中、過去に持ち替え楽器を使用していた演奏で驚愕だったのがこちら。
2014年に実際に私も会場で聴かせていただいたのですが、少人数にも関わらず他の学校とはどこか違う空気感のある洗練された演奏でした。
一人ひとりが中学生とは思えないようなレベルで曲を理解し表現しているのに非常に驚きますが、この演奏でもアルトサックス⇄ソプラノサックス、Bクラリネット⇄Esクラリネットといった持ち替えが行われております。
その中でも、度肝を抜かれたのが動画の4:00あたり。
なんと打楽器の男の子がフルートに持ち替えてソロを吹いています笑
演奏のレベルから考えてもおそらく何かしらの経験があったのではないかと思いますが、それにしてもその急な展開と堂々たる演奏に感動しました。
ここからは「専門家の観点から見てOKな持ち替え」ということでクラシック、ジャズそれぞれの業界でよく行われる持ち替えをご紹介しておきます。
クラシックの世界
音楽大学や芸術大学の場合、入学の際に「専攻」が決まります。基本的に吹奏楽にある楽器は全て一つの専攻として入学していきます。
このブログでは「吹奏楽(部)」にまつわる記事をたくさん書いていますが、そういえば「吹奏楽」に使われる「楽器」についてはちゃんと書いたことが無かったなとふと思いました。 特に吹奏楽に初めて関わる人にとっては意外と未知のジャンルである楽[…]
入学してからはメインの楽器を中心に学んでいきますが、吹奏楽やオーケストラの合奏の授業ではそれぞれの専攻で持ち替えていく楽器があります。代表的なものとしては、
- フルート専攻⇄ピッコロ、アルトフルート、バスフルート
- オーボエ専攻⇄コールアングレ
- クラリネット専攻⇄Esクラリネット、アルトクラリネット、バスクラリネット
- ファゴット専攻⇄コントラファゴット
- サックス専攻⇄ソプラノ、テナー、バリトン、バス(アルトサックスがメイン)
- トランペット専攻⇄ピッコロトランペット、フリューゲルホルン
- トロンボーン専攻⇄アルトトロンボーン(バストロンボーンは最初から別専攻)
などです。ここに表記がない楽器は基本的には吹奏楽に出てくる楽器の持ち替えは少ないです。
なのでクラシック業界で考えると上記の持ち替えが現実的に考えられる範囲かと思います。ただ、中学生や高校生の場合は
- クラリネット、バスクラリネット
- アルトサックス、テナーサックス、バリトンサックス
はそれぞれの学生が入部から卒部まで担当することが多いと思います。
ジャズの世界
クラシックに比べるとジャズの業界の方がもともと現場主義的な部分もあってか、楽器の持ち替えの柔軟性が高くなります。代表的なものとしては、
- クラリネット⇄サックス
- コントラバス⇄チューバ
- トロンボーン⇄ユーフォニアム
クラシック業界であれば「専攻」として区切られる部分をジャズでは柔軟に越えていくことがわかると思います。
吹奏楽における持ち替えについて
このようにそれぞれのプロの世界でも持ち替えが行われることがあります。ただ、中学生や高校生のように学生が多い吹奏楽の世界では持ち替えも多少気をつけて欲しいと思います。
特に指導者に知識がない場合は、生徒の可能性を潰してしまうことにも繋がり兼ねません。
持ち替えの原則
ここまで持ち替えについて話してきましたが、限られた年数で楽器の技術を習得していくので、持ち替えをしないで済むのならしないに越したことはないと思います。
それでもやむを得ない場合、「吹奏楽で楽器を持ち替える原則」はそのしやすい順に、
- 同族楽器内での持ち替え(例:クラリネット⇄エスクラリネット)
- 打楽器(小物)との持ち替え
- マウスピースのサイズが近い楽器との持ち替え(例:クラリネット⇄サックス)
となると思います。フルートとチューバ…みたいに管楽器同士で縁もゆかりも無い楽器との持ち替えというのは基本的におすすめできません。
先ほどの青梅第六中学校の演奏も打楽器の男子生徒が持ち替えてフルートソロを吹いたことを除くと、上の原則の1と2に当てはまっているかと思います。
まとめ
今回は、近年の吹奏楽業界で多くなってきた楽器の「持ち替え」に関して記事にさせていただきました。
顧問の先生はじめ指導者の方に一つだけ注意していただきたいことは、
「生徒が別の楽器で音が出たからと安易に持ち替えできると思わないで欲しい」
ということです。管楽器は意外と習得に時間がかかる楽器なのでやむを得ない場合を除いてなるべく持ち替えをしなくて済むようにしていただけたらと思います。
私自身、色々な学校を指導していると一年の途中で「次の本番だけ急遽別の楽器で…」というような形で急に楽器が変更になっている生徒さんを見かけることがありますが、これはもしかすると生徒さんの楽器上達のきっかけを奪っているかもしれません。
仕事柄、学校の先生とよく接する機会があります。 一つの学校にいるとなかなか気づきづらいと思いますが、たくさんの先生方との関わりの中で感じた「良い先生の条件って何だろう?」ということについて書いてみたいと思います。 これから新しく先生になられ[…]
とはいえ、持ち替えを取り入れることで少ない人数でも音色の幅を広げることができることも間違いありません。担当する部員に無理の無い範囲で上手く持ち替えを取り入れていい音楽づくりに繋げていって欲しいと思います。
番外編 なぜクラシックとジャズで楽器持ち替えの幅が違うのか
実はクラシックの世界もモーツァルトの時代などは持ち替えの文化があったようです。ただ、現在は楽器ごとに比較的その領域が明確に分かれており、作曲家の楽譜をより正確に再現することに力を入れています。
対して、ジャズの世界はクラシックに比べて各楽器の専門性というよりも、即興演奏などで奏者の個性が重要視される傾向が強いため、多くの楽器を扱えることも一つの個性となっているのだと思います。